2023/2/10(金)
in京都西院ネガポジ
with菅原友也/昭和どんちゃらリン
1.雪のように
2.花束をあなたに
3.春夏秋冬
4.Arrival
5.Morning song
6.KATSURAGAWA
7.ブルーサルビアのにおい
8.つよく生きたい
2023年の最初のライブを行った。新曲を二曲歌った。この新曲が私にとって大きな進歩となった。
歌の作り方を大きく変更したのである。ところで歌の作り方には大きく二つある。曲を先につくるか、歌詞を先につくるか、の二つである。ほとんどの場合、前者である。
歌詞を先に作ったという場合も、よく考えると曲先である、という場合が多い。例えばここはAメロ、ここはサビ、というようにあらかじめ設定している場合、曲先である、と言える。
今回、私が作成した新曲はまったく、曲を想定せずに、詩としてつくった。毎朝の20分をかけて、数日間にわたり、推敲を重ねた。作り方としては、イメージを定着させることを心掛けた。私の「思想」ではなく「心象」を表現したつもりである。絵画のように、ある程度、「客観的の存在する」ことができるように作った、といえばよいか。
ライブの反応を観ると、それは成功したように思う。以下に、聴いた人の反応を総合してみたい。そして、今後の課題を述べたいと思う。
まずは、PAのゴローさんに、冒頭の3曲のラブソングがよかったと言われた。どのようによかったかというと、観客と会場の空気を一体化させるような力が曲にあった、ということだった。私の方も歌っていて、集中力が上がる3曲であった、と答えた。
このラブソングは、新曲の2曲とは、作り方が異なる。メロディが先なのである。それゆえ歌詞はメロディに乗るように作られることになる。そして、ラブソングというものは、「二人称」にむけて歌われるものである。すなわち「あなた」というものに向けて歌われる。それは、「目の前の観客」に歌われるものである。そして、歌われるときに、それを聞いた「あなた」に、瞬時に「わたし」の思いが的確に伝わらなければならない。「わたし」のイメージが、「あなた」に、時間的にも内容的にも「ギャップ無く」伝わること。これがラブソングの条件である。
ゴローさんは二曲目の「花束をあなたに」が特に好きだ、と言ってくれた。それに対して私は、スタンドバイミーのようなスタンダードな歌を作りたかったのだ、と答えた。スタンドバイミーの歌詞は、空が落ちて山が崩れて海におちても君のそばにいたい、というように、「誰もが知っている」自然の情景を通して、「私だけが秘めている」あなたへの愛を打ち明けるというものだ。これが、ラブソングの歌詞の基本構造である。「わたし」と「あなた」との間に、「内容的なギャップ」を無くすために、万人が目で見て共有できる「自然」について描くのである。一曲目の『雪のように』では、「雪」という冬の風景を使う。三曲目の『春夏秋冬』は、題名の通りである。
これに対し、新曲Arrivalを聞いた人たちの感想は、おもしろかった。「千差万別」だったのである。「さいの目に切った豆腐に腰を掛けてぬいぐるみがフルートを吹いている」という歌詞を聞いて、「腰を掛ける」というところで、「調味料をかける」イメージが浮かんだ、と女性のお客さんは言った。これがもしラブソングであったら、エラーであり、ただの聴く側の「誤解」である。それが、この新曲の場合はそうではなく、おもしろい発想となるのだ。聴く人がそれぞれで新しいイメージを作りだしてしまう。想像を「要求」するのではなく「期待」すると言えばよいだろうか。
歌詞の作り方としては、以下に観てもらう通り、すべてを「同じ字数」にした。
Arrival
ロウソクの火がガラスを通り抜けて青色の影をテーブルにうつしている
初めて君とむかえた夜明けの空気が窓の外から白々しく手をふっている
墓石の倒れた高速道路をトラックがごはん粒を担いで巣まで運んでいる
白装束を着たコンビニの看板が雨に濡れながらヒッチハイクをしている
中華料理屋の赤い壁に突き刺さった菜箸に焼き餃子の花が咲きはじめる
さいの目に切った豆腐に腰を掛けてぬいぐるみがフルートを吹いている
銀の音色はあらゆる車の窓にうつり国道にあがる煙の行方を追っている
花嫁の角隠しのような白無垢の船が田園上空で巨大な簪をゆらしている
ネガポジの店長の有本くんからアドバイスをもらった。それは、歌う際のブレスの位置についてである。このアドバイスも、従来のラブソングではありえなかったことである。ラブソングはメロディがきまっており、ブレスの位置も定まっている。しかし新曲では、ブレスの位置が定まっていない。どこからどこまで言葉を言うか、止めるか、が変更可能なのだ。これは、聴く側の想像の自由度とリンクしていて、おもしろいことだ。
歌詞を先に作る方法を採用すると、歌詞をメロディに合わせることがないので、必ず「字余り」になる。この余った部分をどのように歌うのか。そこをもっと工夫することができるし、遊べるだろう。そこを今後はもっと意図的に作り上げることができるはずだ。というのが、有本くんのアドバイスの趣旨だろう。それは、創作上の構造からみても、まったく的確であろう。今後の課題としたいところである。
最後に、新曲のもう一曲の方の歌詞も載せておく。これも「同じ字数」で作った。
Morning song
太陽がのぼるように
お風呂から上る君は
誕生日の船に刺した
蝋燭の火をふきけす
山のふちに日が溢れ
鹿の角は伸びてゆき
紫に濡れた髪の毛を
わかれの空へ梳かす
棚引く雲のシーツを
山肌にかぶせる君が
頬を赤く染めた時に
言葉は一枚落葉する
朝の陽が足を伸ばし
川の底の岩に触れて
とばした水しぶきは
占いの字を滲ませる